2026年10月13日、DCMホールディングス株式会社は、子会社の株式会社マイボフェローズが運営する会員サービス「マイボ」で、会員情報を管理するシステムが不正アクセスを受け、一部の会員情報が漏えいしたと公表しました[1]。対象は419人分で、漏れたのは会員番号・メールアドレス・会員ステータス・会員ステージ・保有ポイント数・失効予定ポイント数と失効予定日としています。氏名・住所・電話番号・生年月日・パスワード・クレジットカード情報は含まれていないとのことです。
パスワードやカード情報が含まれていない点は、不幸中の幸いです。ただ、それで安心とは言い切れません。マイボのポイントは1ポイント=1円として加盟店の買い物に使えます[5]。そして今回は「いくら持っていて、いつ失効するか」まで漏れているからです。
「自分のメールアドレスとポイントの情報で、これから何をされるのか」。「会社として、どこから手を打てばよいのか」。この記事では、その2つに答えるために、漏れた情報が悪用されうる場面と、マイボで認証が使われる場所を、公開情報から整理しました。事故の経緯は多くの報道が扱っているため、短くとどめます。
この記事の要点
- 「ポイントがまもなく失効します」といった、マイボを名乗る本物らしいメールやSMSに注意が要ります。同社も、ポイントの失効などを理由にパスワードやカード番号を尋ねることはないとしています[1]。
- マイボのパスワードを他のサービスと同じにしている人は、変えておくと安心です。
- 会社側がまず見直したいのは、メールアドレスや電話番号とパスワードだけで入れるログインと、パスワードの再設定の確認方法です。
なお、本記事は公表文や公式サイトなど、公開情報だけをもとにしています。ログイン画面を実際に試すような調査はしていません。確認できなかった点は「確認できず」と書いています。
何が起きたか(要約)
公表文[1]と、その後のお知らせ[2]によると、概要は次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 発生 | 2026年9月21日、マイボの会員情報を管理するシステムに、通常とは異なる多数のアクセス |
| 発覚 | 10月8日、サイバー攻撃に関する注意喚起を受けてアクセス記録を点検し、不正アクセスが判明。直ちに通信を遮断 |
| 停止 | 10月9日から「マイボアプリ」のすべてのサービスを一時停止 |
| 件数 | 419人分(現時点で把握している人数で、引き続き精査中) |
| 漏えいした項目 | 会員番号、メールアドレス、会員ステータス、会員ステージ、保有ポイント数、失効予定ポイント数と失効予定日 |
| 含まれていない項目 | 氏名、住所、電話番号、生年月日、パスワード、クレジットカード情報 |
| 二次被害 | 10月13日時点で、外部への公開や第三者による悪用は確認されていないとしています |
| 対応 | 対象者にメール等で個別に連絡。個人情報保護委員会への報告、アクセス制御の強化などの再発防止策 |
| その後 | 10月15日、マイボアプリは再開せずに終了。今後は「DCMアプリ」を、マイボアプリと同じログイン情報で会員証として使う案内[2] |
「DCMアプリ」には被害は確認されていないとしています[1]。同社は調査を続けており、件数などは今後の続報で変わる可能性があります。
漏れた情報で、何ができてしまうか
今回漏れた項目は、一つひとつは小さな情報に見えます。ただ、組み合わせると次のような使い道が考えられます。
| 漏れた情報 | 攻撃者にとっての使い道(一般的に考えられるもの) |
|---|---|
| メールアドレス | DCMアプリのログインに使える情報の一つそのもの[3]。他のサービスで漏れたパスワードと組み合わせて次々に試す「パスワードリスト攻撃」の材料になる |
| メールアドレス+保有ポイント数+失効予定日 | 「〇〇ポイントが〇月〇日に失効します」と、本人の実際の数字を入れた偽メールを送れる。数字が合っているほど、本物と見分けにくくなります |
| 会員ステージ・会員ステータス | 「ステージ維持のお手続き」など、会員の状態に合わせた文面を作りやすくなる |
| 会員番号 | 会員を名乗って問い合わせる時の材料になりうる。DCMアプリはカード裏面のマイボIDとPINコードでもログインできますが[3]、漏れた会員番号がこのマイボIDと同じものかは公表文からはわかりませんでした |
電話番号は漏れていないとされていますが、送り主を偽ったSMSが、本物と同じ画面(スレッド)に並んで表示される手口も知られています[7]。メールだけでなくSMSにも気をつけたいところです。
大事なのは、今回漏れた情報が「本物の会員らしく見せる材料」だという点です。ポイントは1ポイント=1円で使えるため[5]、狙う側にとってはお金に近い価値があります。
マイボで認証が使われる場所
マイボの会員は、マイボサイトとDCMアプリでログインします[3][4]。公式サイトで確認できた範囲で並べました。
| 場所 | 今の方式(公開情報で確認できた範囲) | 漏れた情報との関係 | 狙われやすさ |
|---|---|---|---|
| マイボサイトへのログイン | ログインの入口とパスワード再設定の案内がある[4]。使うIDの組み合わせの詳細は公開ページの文面からは確認できず。2段階の確認も確認できず | メールアドレスが漏れた。パスワードは漏れていないが、他と同じパスワードの人はパスワードリスト攻撃で入られる可能性がある | 高 |
| DCMアプリへのログイン | メールアドレスまたはログイン用電話番号とパスワード、または会員カード裏面のマイボIDとPINコード[3]。2段階の確認は確認できず | マイボアプリと同じログイン情報で使う案内[2]。もし会員番号がマイボIDと同じなら、残るのはPINコードだけになる | 高 |
| パスワードを忘れた時 | メールアドレスかログイン用電話番号と、生年月日を入力して受付[4]。その後の確認はメッセージの受信で進むとみられる | 生年月日は漏れていない。ただ生年月日は他から知られやすい情報で、メールのアカウントを乗っ取られると守りが弱くなる。漏れたアドレスあての偽の「再設定」メールにも注意が要る | 中 |
| 機種変更での引き継ぎ | 新しい端末で、メールアドレスまたは電話番号とパスワード、もしくはマイボIDとPINコードでログイン[3] | 端末を持っているかどうかの確認は確認できず。ログイン情報を知っていれば別の端末で入れる形とみられる | 中 |
| ポイントの利用 | 会員登録した会員が、1ポイント=1円で加盟店で利用[5]。使う時の追加の確認は確認できず | 乗っ取られると、ポイントを使われるおそれがある。保有数が漏れているため、多く持つ人ほど狙われやすい | 高 |
| プリペイド「ミーモ」のチャージ | マイボサイトではクレジットカードでチャージできる[5]。チャージ時の追加の確認は確認できず | カード情報は漏れていない。乗っ取られた場合の影響は確認できず | 要確認 |
| 問い合わせ窓口での本人確認 | どの項目で本人を確かめるかは確認できず | もし会員番号やメールアドレスが合えば本人と見なす運用なら、今回漏れた項目と重なる | 要確認 |
※「狙われやすさ」は、公開情報をもとにした当社の見立てです。実際のしくみを確かめたものではありません。
会社がまず見直すとよい所(優先順)
公表文では、アクセス制御の強化などの再発防止策を講じているとしています[1]。一方で、会員のログインやパスワード再設定の確認方法を変えるといった記載はありませんでした。認証の観点からは、次の順で見直すことが考えられます。
- ポイントを使う場面と、メールアドレスなどの登録情報を変える場面に、「持っているか」の確認を足す。お金に近いポイントが動く所ほど、知っている情報だけで通れる形を減らすことが考えられます。
- パスワードの再設定に、メール以外の確認をもう一つ足す。いまの受付はメールアドレスか電話番号と生年月日が入口です。メールのアカウントが乗っ取られた時にも守れる形が考えられます。
- 利用者に、本物の連絡の見分け方を先に伝える。失効の案内がどの手段で、どんな文面で届くのかを示しておくと、本人の数字を入れた偽の連絡と区別しやすくなります。
認証の観点から:「知っている」と「持っている」は違う
今回漏れたのは、会員であることを「知っている」ための情報です。メールアドレス、会員番号、ポイントの残高。どれも、知っていれば本物の会員や本物の運営者らしく振る舞えます。
知られた情報は、取り消せません。一方で、「その端末や電話回線を実際に持っていること」は、情報が漏れても変わりません。ポイントを使う、登録情報を変えるといった場面ほど、「知っているか」から「持っているか」へ土台を移すことが効いてきます。
SMSで届くワンタイムパスワードも、「持っているか」を確かめる方式の一つです。ただし米国NISTのガイドラインは、SMSなど電話網を使う確認方法を『制限付き(restricted)』の手段と位置づけています[6]。禁止ではありませんが、端末の入れ替えやSIMの変更、電話番号の乗り換え(ポーティング)といったリスクを踏まえ、それだけに頼りきらない設計が求められています。
当社Infront Securityの電話番号認証は、利用者がワンタップで指定の番号に発信し、その発信者番号と端末の情報をサーバー側で照合して本人を確かめます。電話番号を知っていても、その回線から発信できなければ認証は通りません。偽サイトは利用者の電話回線を持っていないため、フィッシングに耐性のある方式です。
今のログインを壊さずに「持っているか」の確認を足す方法については、お気軽にご相談ください。
出典
- DCMホールディングス株式会社「会員サービス『マイボ』における不正アクセスによる会員情報の漏えいに関するお詫びとお知らせ」(2026年10月13日)https://www.dcm-hldgs.co.jp/grp/news/news_file/file/20261013nwes%20.pdf
- 株式会社マイボフェローズ「会員証アプリ『マイボアプリ』終了日変更のお知らせ」(2026年10月15日)https://co.myvot.fun/2026/10/15/015/
- DCM「DCMアプリ」(2026年10月18日取得)https://www.dcm-hc.co.jp/feature/dcm-app/
- マイボサイト(ログイン/パスワード再設定受付)(2026年10月18日取得)https://myvot.fun/index.html ・ https://myvot.fun/customer/member/password/auth.html
- 株式会社マイボフェローズ「サービス概要」「マイボの使い方」(2026年10月18日取得)https://co.myvot.fun/service_summary/ ・ https://co.myvot.fun/users_guide/member/
- NIST SP 800-63B Rev.4(2025年8月)§3.1.3.3 https://pages.nist.gov/800-63-4/sp800-63b.html
- ソフトバンク 送信元が偽装されたSMSに関するご注意(2020年3月4日掲載、2020年12月3日更新)https://www.softbank.jp/mobile/info/personal/news/support/20200304a/