2026年9月29日、株式会社イープラスは、電子チケット「スマチケ」の払戻し情報を管理するシステムが第三者の不正アクセスを受け、お客様の個人情報を含む一部の情報が漏えいしたことが判明したと公表しました[1]。対象は、2022年6月30日から2026年9月11日の間にスマチケから払戻しを申請した一部のお客様の情報、合計1,463件です。漏れた項目は払戻しの方法で異なり、メールアドレスとカナ氏名は全員に共通、銀行振込の人は振込先口座情報、郵便振替の人は送付先の郵便番号・住所・氏名も含まれるとしています。どの件にも、払戻しの対象になった公演名・会場・開催日時が含まれています。クレジットカード情報やパスワードは漏えいの対象に含まれていない、とのことです。
カード情報とパスワードが含まれていない点は、ひとまず安心材料です。ただ、それで安心とは言い切れません。今回漏れたのは「いつ、どの公演の払戻しを、どこで受け取ったか」という、払戻しの案内そのものに使える情報だからです。
「自分のメールアドレスや口座情報で、これから何をされるのか」。「会社として、どこから手を打てばよいのか」。この記事では、その2つに答えるために、漏れた情報が悪用されうる場面と、イープラスの中で認証が使われる場所を、公開情報から整理しました。事故の経緯は多くの報道が扱っているため、短くとどめます。
この記事の要点
- 自分が実際に払戻しを受けた公演名まで正しく書いた、イープラスをかたるメールが届くおそれがあります。「返金先の確認」をうたう連絡には特に注意が要ります。
- 登録メールアドレスとパスワードでログインしていて、他のサービスと同じパスワードを使っている人は、変えておくと安心です。
- 会社側がまず見直したいのは、払戻しや返金先の手続きでの本人確認と、パスワード再設定がメールだけで完結していないかです。
なお、本記事は公表文や公式のよくある質問など、公開情報だけをもとにしています。サイトやアプリの画面を実際に試すような調査はしていません。確認できなかった点は「確認できず」と書いています。
何が起きたか(要約)
公表文[1]によると、概要は次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 不正アクセス | 2026年9月11日19時58分から9月12日2時44分にかけて複数回 |
| 判明と対応 | 9月14日から15日に不正アクセスと漏えいの事実を確認。15日中にセキュリティ設定を見直し、不正アクセスを遮断 |
| 件数 | 合計1,463件(銀行振込751件、クレジットカード返金644件、郵便振替払出証書68件) |
| 漏えいした項目 | 全員:メールアドレス、カナ氏名、払戻し対象の公演名・会場・開催日時。銀行振込:振込先口座情報(金融機関名・支店名・口座種別・口座番号・口座名義(カナ))。郵便振替:送付先情報(郵便番号・住所・氏名) |
| 漏えいしていない項目 | クレジットカード情報(システム内に保持していない)、パスワード。該当システムは会員情報やチケット購入情報のデータベースとは独立していたとしています |
| 原因 | 払戻し情報を管理するシステムへの第三者からの不正アクセス |
同社は9月29日から、対象者(イープラス会員ではない同行者を含む)に個別にメールで知らせているとしています[1]。
漏れた情報で、何ができてしまうか
今回の情報は、「払戻し」という一つの場面に結びついている点が特徴です。
| 漏れた情報 | 攻撃者にとっての使い道(一般的に考えられるもの) |
|---|---|
| メールアドレス+カナ氏名+公演名・会場・日時 | 「〇月〇日の〇〇公演の払戻しについて」と、本人しか知らないはずの内容を書いた偽メールを送れる。本物の案内と見分けにくくなる |
| 振込先口座情報 | 口座番号だけでお金を引き出すのは一般的に難しいとされます。ただ、「口座情報が一致しました。確認のため〜を入力してください」と信用させる材料になり、ネットバンキングのログイン情報などを聞き出す入口になりえます |
| 郵便番号・住所・氏名 | 郵便やはがきで、イープラスや払戻しの事務局を名乗る連絡を送れる |
| メールアドレス | イープラスのログインID(登録メールアドレスまたは携帯電話番号[5])と同じメールアドレスである可能性がある。他のサービスで漏れたパスワードと組み合わせて次々に試す「パスワードリスト攻撃」の材料になる |
イープラスは以前から、同社をかたる不審なメールに注意を呼びかけています。例として、スマチケの利用料の請求や「一部保証金の返還」を装うメールが挙げられています[2]。お金の出入りを口実にした偽メールは、すでに出回っている型です。今回の情報は、その型に「本物の公演名」と「本物の口座」を足せる材料だと言えます。
イープラスで認証が使われる場所
公式のよくある質問やご利用ガイドなど、公開情報で確認できた範囲で並べました。
| 場所 | 今の方式(公開情報で確認できた範囲) | 漏れた情報との関係 | 狙われやすさ |
|---|---|---|---|
| 新規会員登録 | メールに届く認証コードを入力し、そのあと携帯電話番号を入力して「認証電話番号へ発信」する[3]。利用者が指定の番号へ発信して、本人の電話番号であることを確かめる方式[4] | 電話番号の持ち主かを確かめている。今回の漏えい情報だけで突破するのは難しい | 低 |
| ログイン | ID(登録メールアドレスまたは携帯電話番号)とパスワード[5][6]。新しい端末やブラウザでログインするとメールで通知される[7]。ログイン時の追加の確認があるかは確認できず | IDとして使われている可能性があるメールアドレスが漏れた。パスワードを他と同じにしている人は、入られる可能性がある | 高 |
| パスワード再設定 | 登録メールアドレスあてに再設定。メールアドレスが不明な人向けの別の手続きもある[5]。その手続きでの本人確認の方法は確認できず | 漏れたメールアドレスあてに偽の再設定メールを送りやすい。メールを乗っ取られた人は再設定まで進まれる | 高 |
| 申込み・購入 | 電話番号が未認証なら電話番号認証が入る[4]。クレジットカードは本人認証サービス(3Dセキュア2.0)の登録が必須[8] | カード情報は漏れていないとされる | 低 |
| スマチケの受け取り | 公演により、電話番号認証(発信)、SMSの4桁の認証番号、ログイン、認証なしのいずれか[9][10][11] | SMSの番号は、偽サイトで聞き出されると使われるおそれがある | 中 |
| 払戻し・返金先の登録 | 払戻しの方法はチケットの受取状況や支払方法で異なり[12]、指定口座への払戻しでは氏名・住所・電話番号・口座情報を連絡する[13]。手続きのときに本人をどう確かめるかは確認できず | 今回漏れたのは、まさにこの手続きの情報 | 高 |
| 問い合わせ窓口での本人確認 | どの項目で本人確認しているかは公開されておらず、確認できず | もしメールアドレス・カナ氏名・公演名が合えば本人と見なす運用なら、今回漏れたのはその組み合わせ | 要確認 |
※「狙われやすさ」は、公開情報をもとにした当社の見立てです。実際のしくみを確かめたものではありません。
会社がまず見直すとよい所(優先順)
公表文では、全システムの総点検、セキュリティ診断の実施の間隔を短くすること、研修や社内規定・管理体制の見直しが挙げられています[1]。一方で、ログインや払戻し手続きの確認方法を変えるといった記載はありませんでした。認証の観点からは、次の順で見直すことが考えられます。
- 払戻しと返金先の変更に、確かな本人確認を入れる。漏れたのはこの手続きの情報です。メールアドレスや氏名、公演名が合うことを本人の証拠にしない形が望まれます。
- パスワード再設定とログインに、メール以外の確認を足す。会員登録ではすでに電話番号の発信で本人を確かめています。その確認を、再設定や新しい端末からのログインにも広げる考え方です。
- 本物の連絡の見分け方を、利用者に先に伝える。払戻しの案内をどの送信元から、どんな件名で送るのかを示しておくと、偽メールとの区別がつきやすくなります。3Dセキュアの案内では、同社はすでにこの形で告知しています[8]。
認証の観点から:「知っている」と「持っている」は違う
イープラスは、新規会員登録やスマチケの受け取りで、利用者が指定の番号へ発信して電話番号を確かめる方式をすでに使っています[4][9]。一方で、ログインやパスワード再設定は、メールアドレスとパスワード、メールでの再設定が中心です[5]。今回漏れたのはメールアドレスでした。
ここで分けて考えたいのは、「知っていること」と「持っていること」は別物だという点です。メールアドレスや口座番号は、もう第三者に知られてしまったかもしれません。一方で、その電話番号の回線を実際に持っているかは、情報が漏れても変わりません。
SMSで届く認証番号も、「持っているか」を確かめる方式の一つです。ただし米国NISTのガイドラインは、SMSなど電話網を使う確認方法を『制限付き(restricted)』の手段と位置づけています[14]。禁止ではありませんが、端末の入れ替えやSIMの変更、電話番号の乗り換え(ポーティング)といったリスクを踏まえ、それだけに頼りきらない設計が求められています。
当社Infront Securityの電話番号認証は、利用者がワンタップで指定の番号に発信し、その発信者番号と端末の情報をサーバー側で照合して本人を確かめます。電話番号を知っていても、その回線から発信できなければ認証は通りません。偽サイトは利用者の電話回線を持っていないため、フィッシングに耐性のある方式です。
今のログインを壊さずに「持っているか」の確認を足す方法については、お気軽にご相談ください。
出典
- 株式会社イープラス「弊社システムに対する不正アクセスの発生および個人情報 漏えいに関するお詫びとお知らせ」(2026年9月29日)https://support-qa.eplus.jp/hc/ja/articles/62711500727961
- イープラス よくあるご質問「【注意喚起】イープラスを騙った不審なメール等にご注意ください」(2026年10月17日取得)https://support-qa.eplus.jp/hc/ja/articles/38599155077273
- イープラス「ご利用ガイド」(2026年10月17日取得)https://eplus.jp/sf/guide/service
- イープラス よくあるご質問「電話番号認証とは何か」(2026年10月17日取得)https://support-qa.eplus.jp/hc/ja/articles/17959215433241
- イープラス よくあるご質問「ログインができない(ID・パスワードを忘れた)」(2026年10月17日取得)https://support-qa.eplus.jp/hc/ja/articles/360041174494
- イープラス よくあるご質問「【スマチケ】ダウンロード時にログインは必要か」(2026年10月17日取得)https://support-qa.eplus.jp/hc/ja/articles/7086762769177
- イープラス よくあるご質問「『新しい端末からログインされました』とメールがきた」(2026年10月17日取得)https://support-qa.eplus.jp/hc/ja/articles/360041662273
- イープラス よくあるご質問「【重要】本人認証サービス(3Dセキュア2.0)ご登録必須化のお知らせ」(2026年10月17日取得)https://support-qa.eplus.jp/hc/ja/articles/35143263918361
- イープラス よくあるご質問「【スマチケ】電話番号認証とは何か」(2026年10月17日取得)https://support-qa.eplus.jp/hc/ja/articles/21993579626905
- イープラス よくあるご質問「【スマチケ】SMS認証とは何か」(2026年10月17日取得)https://support-qa.eplus.jp/hc/ja/articles/360041175694
- イープラス よくあるご質問「【スマチケ】チケットの認証方法を知りたい」(2026年10月17日取得)https://support-qa.eplus.jp/hc/ja/articles/48336173816601
- イープラス よくあるご質問「【公演中止】払戻方法を知りたい」(2026年10月17日取得)https://support-qa.eplus.jp/hc/ja/articles/360041662793
- イープラス よくあるご質問「指定口座へ払戻しとなる場合、注意すべきことは何か」(2026年10月17日取得)https://support-qa.eplus.jp/hc/ja/articles/360041662833
- NIST SP 800-63B Rev.4(2025年8月)§3.1.3.3 https://pages.nist.gov/800-63-4/sp800-63b.html