2026年8月18日、株式会社VOISINGは、社内で使っていたBIツール(データを集計・分析するための道具)に不正アクセスがあり、顧客の情報が取得されたと公表しました[1]。9月30日の第四報では、対象は約17万件で、調査がすべて完了したとしています[4]。漏れたのは、氏名・住所・電話番号・メールアドレス・生年月日・性別に加え、購買履歴や決済金額の記録、サービスの加入状況、そして応援しているタレント(推し)の選択情報です。クレジットカード番号やログインパスワードに相当する情報は持っておらず、対象外とされていますが、それで安心とは言い切れません。
「自分の情報で、これから何をされるのか」。「会社として、どこから手を打てばよいのか」。この記事では、その2つに答えるために、漏れた情報が悪用されうる場面と、サービスの中で認証が使われている場所を、公開情報から整理しました。事故の経緯は多くの報道が扱っているため、短くとどめます。
この記事の要点
- 名前・住所に加えて「何を買ったか」「誰を推しているか」まで知られた、本物らしい偽の連絡が届きやすくなります。
- VOISING IDはGoogleかAppleのアカウントで入る形のため、偽の画面でGoogle・Appleのパスワードを入れないことが大切です。
- 会社側がまず見直したいのは、問い合わせ窓口での本人確認と、配送先などの変更時の確認です。
なお、本記事は公表文や公式サイト・アプリストアの説明など、公開情報だけをもとにしています。ログインを実際に試すような調査はしていません。確認できなかった点は「確認できず」と書いています。
何が起きたか(要約)
公表文[1][2][3][4]によると、概要は次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 発生 | 2026年8月10日から外部の不正アクセスがあり、8月16日に保管データが取得された。同日深夜に確認し、翌17日までにシステムを止めてネットワークから切り離した |
| 件数 | 約17万件(8月20日の第二報で暫定値として公表、9月30日の第四報で調査完了) |
| 対象サービス | VOISING ID、VOISING CONNECT、VOISING ONLINE STORE、いれいす公式ファンクラブ「いれらぶ」、旧VOISINGアカウント、旧オンラインストア4つ。退会した人や休眠中の人も含む |
| 漏えいした項目 | 氏名、住所、電話番号、メールアドレス、生年月日、性別、購買履歴(購入日時・商品等)、決済金額の記録、サービス加入状況、推しの選択情報 |
| 漏えいしていない項目 | クレジットカード番号・有効期限・セキュリティコード、ログインパスワードに相当する情報(もともと保持していないとしています) |
| 外部への公開 | 8月22日にSNSで10件の公開を確認し、8月23日には特定のサイトで約5万件が公開されている可能性を検知したとしています[3] |
| 原因 | 利用していたBIツールの脆弱性を悪用されたとしています[4] |
ほかの事故と違うのは、情報の一部がすでにネット上に出たと会社自身が公表している点です[3]。同社は、不審なメール・SMS・SNSのメッセージに注意し、流出した画像やデータを広めないよう呼びかけています[3][4]。
漏れた情報で、何ができてしまうか
今回漏れた項目には、ほかの事故にはあまり無い特徴があります。住所や電話番号に加えて、「何を・いつ・いくらで買ったか」と「誰を推しているか」まで含まれていることです。
| 漏れた情報 | 攻撃者にとっての使い道(一般的に考えられるもの) |
|---|---|
| 氏名+メールアドレス+推しの情報 | 推しの名前を入れた「限定グッズ」「当選のお知らせ」「チケットの先行案内」など、思わず開きたくなる偽メールを送れる |
| 氏名+電話番号 | 名前入りのSMSを送れる。送り主を偽ったSMSが、本物と同じ画面(スレッド)に並んで表示される手口も知られています[8] |
| 購買履歴・決済金額の記録 | 「ご注文の商品について」「お支払いの確認」と、実際の購入に合わせた偽の連絡を作れる。本物との見分けが難しくなる |
| 住所+電話番号+生年月日 | 本人になりすまして問い合わせる時の材料になる。生年月日や電話番号から作ったパスワードを使っている人は、それを推測される |
同社は第二報で、生年月日や電話番号から推測されやすいパスワードを他のサービスでも使っている場合は、変えるよう呼びかけています[2]。また、決済を保護者や家族が行っている場合は、その人にも内容を伝えるよう求めています[2]。
大事なのは、どれも「知っていれば本人らしく見える情報」だという点です。とくに購入内容は、一般的に窓口での本人確認に使われることもある種類の情報です。
このサービスで認証が使われる場所
公開情報で確認できた範囲で、認証が関わる場所を並べました。
| 場所 | 今の方式(公開情報で確認できた範囲) | 漏れた情報との関係 | 狙われやすさ |
|---|---|---|---|
| VOISING IDの新規登録・ログイン | ログイン画面の案内では、Google アカウントまたは Apple Account で登録・ログインする形[5] | VOISING側にパスワードは無い。代わりに、偽のログイン画面でGoogle・Appleのパスワードを入れさせる手口が考えられる | 中 |
| 旧VOISINGアカウント | アカウントはリニューアルし、GoogleかAppleで新規登録するよう案内されています[5]。旧アカウントのログイン方式は確認できず | 旧アカウントの利用者も対象。旧方式で使っていたパスワードを他で使い回している人は注意 | 要確認 |
| 公式ストア(VOISING ONLINE STORE) | VOISING IDでログインして利用[6]。決済はカード、PayPayなど[6] | カード情報は持っていないとされる[4]。購買履歴を使った「注文の確認」偽メールの舞台になりやすい。配送先の変更の確認方法は確認できず | 中 |
| ファンクラブ「いれらぶ」 | VOISING IDで利用できると案内[6]。追加の確認の有無は確認できず | 加入状況が漏れた。会員だと知られた上で「更新のお知らせ」などの偽連絡が届きうる | 中 |
| アプリ「VOISING CONNECT」 | App Storeの説明にログイン方法の記載は無く、確認できず。アプリ内課金(有料会員)あり[7] | 有料会員の購入がある。乗っ取られると課金や投稿に使われる可能性 | 要確認 |
| 問い合わせ窓口での本人確認 | 専用フォームあり[4]。どの項目で本人確認しているかは確認できず | もし氏名・住所・電話番号・生年月日・購入内容が合えば本人と見なす運用なら、今回漏れたのはまさにその項目 | 要確認 |
※「狙われやすさ」は、公開情報をもとにした当社の見立てです。実際のしくみを確かめたものではありません。
会社がまず見直すとよい所(優先順)
第四報では、ツールの停止、資格情報の更新、アクセス経路の限定、個人情報の仮名化・最小化、監視の強化などが挙げられています[4]。一方で、利用者のログインや本人確認の方法を変えるといった記載はありませんでした。認証の観点からは、次の順で見直すことが考えられます。
- 窓口の本人確認から、今回漏れた項目を外す。氏名・住所・電話番号・生年月日に加え、「最近何を買ったか」も、もう秘密ではありません。これは仕組みを作り直さなくても、運用の見直しから始められます。
- 価値や物が動く場面に、追加の確認を入れる。配送先や登録情報の変更、有料会員の購入などです。毎回のログインを重くせず、狙われる場面だけを固めるという考え方です。
- 公式からの連絡の出し方を決めて、先に知らせる。どの差出人から、どんな文面で、どこへ誘導するかを利用者に伝えておくと、推しの名前を使った偽の連絡との見分けを助けられます。
認証の観点から:「番号を知っている」と「その電話を持っている」は違う
今回、約17万件の電話番号が住所や推しの情報と一緒に漏れ、一部はネット上に出たとされています[3][4]。ここで分けて考えたいのは、「電話番号を知っていること」と「その電話番号の回線を実際に持っていること」は別物だという点です。
前者は、もう第三者に知られてしまったかもしれません。一方で後者は、情報が漏れても変わりません。認証の土台を「知っているか」から「持っているか」へ移すことが、漏えいの後にこそ効いてくる対策です。
SMSで届くワンタイムパスワードも、「持っているか」を確かめる方式の一つです。ただし米国NISTのガイドラインは、SMSなど電話網を使う確認方法を「制限付き(restricted)」の手段と位置づけています[9]。禁止ではありませんが、端末の入れ替えやSIMの変更といったリスクを踏まえ、それだけに頼りきらない設計が求められています。
当社Infront Securityの電話番号認証は、利用者がワンタップで指定の番号に発信し、その発信者番号と端末の情報をサーバー側で照合して本人を確かめます。電話番号を知っていても、その回線から発信できなければ認証は通りません。偽サイトは利用者の電話回線を持っていないため、フィッシングに耐性のある方式です。
今のログインのしかたを保ったまま、窓口や変更手続きに「持っているか」の確認を足す方法については、お気軽にご相談ください。
出典
- 株式会社VOISING 第一報(2026年8月18日)https://voising-official.com/news/931
- 株式会社VOISING 第二報(2026年8月20日)https://voising-official.com/news/936
- 株式会社VOISING 第三報(2026年8月24日)https://voising-official.com/news/937
- 株式会社VOISING 第四報(2026年9月30日)https://voising-official.com/news/1015
- VOISING ID ログイン・新規登録画面の案内(2026年10月15日取得)https://id.voising-official.com/
- 株式会社VOISING プレスリリース「VOISING ONLINE STORE」グランドオープン(PR TIMES・2026年10月15日取得)https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000118.000115076.html
- App Store「VOISING CONNECT」説明文・App内課金・プライバシー欄(2026年10月15日取得)https://apps.apple.com/jp/app/id6755137488
- ソフトバンク 送信元を偽装したSMSについての注意喚起(2020年3月4日掲載)https://www.softbank.jp/mobile/info/personal/news/support/20200304a/
- NIST SP 800-63B Rev.4(2025年8月)§3.1.3.3 https://pages.nist.gov/800-63-4/sp800-63b.html